肝臓の働きとは
肝臓には、代謝・解毒作用・胆汁の生成及び分泌の3つの働きがあります。私たちが食べ物から摂った栄養素は、胃や腸で分解され、その後吸収されます。それから肝臓で貯蔵して、必要に応じてエネルギーを産出します。
この時、過度のエネルギーを摂取してしまうと、肝臓に脂肪が溜まり、分解されにくくなるため肝機能が低下します。これを代謝異常と言います。また、代謝の際に出る有害物質などを解毒して、尿や胆汁などで排出する働きがあります。さらに脂肪を乳化してタンパク質が分解されやすくなる「胆汁」を生成し分泌しています。
無口で働き者の肝臓
肝臓には、肝細胞が集まっている臓器で、私たちの体内でも最も大きい臓器であるとされています。生命維持のために、栄養の代謝・有害物質の解毒・胆汁の分泌などの働きを担っています。ただし、肝臓は「沈黙の臓器」とも言われ、何らかの異変が起きても初期症状がほとんど現れないのが特徴です。
大きく3つの働きがあります
代謝
体内に入ってきた栄養素が運ばれると、胃や腸で分解・吸収された後に、生命維持に利用しやすい物質に変えます。これを代謝と言って、肝臓で変えられた物質は血管を通り、全身の臓器や器官に運ばれます。
貯蔵
肝臓で利用しやすい物質に分解した栄養素を蓄える働きもあります。
生成
体内に入れた栄養素のうち、脂肪の消化・吸収及び不要な物質排出を促す胆汁を生成し、分泌します。
肝機能障害(肝機能異常)の原因や症状
原因
肝機能障害には、急性肝機能障害と慢性の肝機能障害に分類されます。肝機能障害は、過度の飲酒や肥満、糖尿病など、必要以上にエネルギーを摂取することで、肝臓に余分に脂肪が溜まってしまい、肝臓の機能が低下することで起こります。また、何らかの疾患によって肝臓の働きが低下することが原因となることもあります。このように、必要な物質やエネルギーを分解できない代謝異常が主な原因です。
症状
肝機能障害が起こると、全身の倦怠感、身体のむくみ、食欲低下、黄疸、嘔気、皮膚のかゆみ、腹水などの症状が現れます。しかし、肝臓は沈黙の臓器とも呼ばれるように、初期段階で自覚できる症状がほとんどないのが特徴です。そのため、すでに症状が現れている場合には、かなり病気が進行していると考えられます。気づいたら重症化していたということが起こらないためにも、健康診断や人間ドックなどで定期的に検査することが大切です。
肝機能異常は増加傾向にある!?
慢性の肝機能障害には、B型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎、脂肪性肝炎、アルコール性肝炎、自己免疫性肝炎などがあります。また、急性肝機能障害には、急性ウイルス性肝炎や薬剤性肝炎などがあります。
これらのうち、特に多いのが「非アルコール性脂肪性肝疾患(非飲酒者の脂肪肝)」で、近年増加傾向にあります。これは近年の飽食・過食と運動不足の影響が大きいとされています。肝機能異常が長く慢性化すると、肝硬変や肝臓がんなど、重篤な疾患へと進行する恐れがあるため注意が必要です。
肝臓の代表的な病気
脂肪肝
過食や運動不足などによる生活習慣の乱れが原因で、肝臓に中性脂肪が溜まった状態を脂肪肝と言います。日本における男性の約40%が脂肪肝と言われています。痩せ型の人でも肝臓に脂肪が溜まって脂肪肝と診断されることも多くみられます。脂肪肝の方は、脂質異常や糖尿病などを併発するほか、内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)を起こすなど、適切な治療を行わないと動脈硬化を進行させるだけではなく、肝機能低下や悪化・肝硬変など重篤な病気を引き起こしてしまいます。
脂肪肝が疑われる数値
- AST (GOT):基準値7~38 IU/L
- ALT (GPT):基準値4~44 IU/L
上記の基準値よりも高い場合は、急性肝炎、慢性肝炎、劇症肝炎、脂肪肝・アルコール性肝炎、肝硬変、肝がんなどの疾患の可能性があります。 - γ-GTP:男性→80 IU/L以下、女性→30 IU/L以下
基準値よりも高い場合、急性肝炎、慢性肝炎、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪性肝炎、肝硬変、肝がん、薬剤性肝障害、胆道系疾患などの疾患の可能性があります。
脂肪肝の症状
沈黙の臓器とも呼ばれる肝臓は、自覚症状が起こりにくい臓器です。脂肪肝になったとしても、特別目立った症状が現れません。しかし、脂肪肝から肝炎や肝硬変に進行したり、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病を併発したりすることがあるため、注意が必要です。
脂肪肝が進行すると、全身の倦怠感や肥満などの症状が現れます。
脂肪肝の原因
過食や過度の飲酒、運動不足など、生活習慣の乱れが主な原因です。特に、糖質や脂質を多く摂りすぎると、体内で中性脂肪に変えられて肝臓に蓄積されます。
1.肥満
過食や運動不足で肥満になってしまうと、インスリンが正常に分泌・機能しなくなります。インスリンは、脂肪を必要なエネルギーに変える重要な働きがありますが、このインスリンが正常に機能しないことで、脂肪が肝臓に蓄積してしまいます。
2.大量の飲酒(アルコール過剰摂取)
アルコールを大量に摂取すると、中性脂肪が肝臓に溜まりやすくなります。本来、体内に入ったアルコールは肝臓でほとんどが解毒・排出されます。しかし、過剰に摂取することで肝臓機能に異常が起こり、上手く解毒できずに脂肪が蓄積されてしまいます。
3.過度の食事制限(ダイエット)
無理なダイエットによって食事量が減ると、筋肉量が減ってしまいます。筋肉が減ると代謝が落ちてしまい、肝臓に脂肪が蓄積されやすくなってしまいます。これを低栄養性脂肪肝と言います。
脂肪肝を放置…肝炎や肝硬変になることもある!?
脂肪肝を治療せずにそのまま放置してしまうと、肝炎や肝硬変・肝がんの発症など病気が進行する恐れがあります。
アルコール性脂肪肝:アルコール性脂肪性肝炎(ASH)
アルコールの過剰摂取が原因で脂肪肝を起こし、そのまま肝炎に進行する状態をアルコール性脂肪肝(ASH:alcoholic steatohepatitis)と言います。肝炎から肝硬変・肝がんへと病気が進行する可能性があるため、早めの適切な治療が必要です。健康診断や人間ドックなどで肝機能異常を指摘された場合は、なるべくお早めに当院へご相談ください。
非アルコール性脂肪肝:非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
飲酒をしない方でも過食による栄養の過多が脂肪肝となります。これを非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:non-alcooholic steatohepatitis)と言います。日本人の脂肪肝に最も多くみられるとされています。
ウイルス性肝炎
ウイルス性肝炎には、A型・B型・C型・D型・E型があります。日本では、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染者が多く、特に慢性化しやすいとされています。ウイルス性肝炎は、治療を行わずにそのまま放置すると、肝硬変や肝がんに進行する恐れがあります。そのため、早期に適切な治療をする必要があります。
ウイルス性肝炎の種類
A型肝炎ウイルス(HAV)
A型肝炎ウイルスが原因で起こる一過性の感染症です。主に、糞便から排出されたウイルスが水や氷・魚介類・野菜・果物などを経過して口に入って感染します。感染して約2~7週間、潜伏期間があった後に、急な発熱・全身の倦怠感・吐き気・嘔吐・食欲不振などが起こり、数日後に黄疸になります。潜伏期間が長いため、旅行から帰ってから感染がわかるということもあります。
B型肝炎ウイルス(HBV)
妊娠中や出生時に血液や体液に触れて感染する母子感染や、不衛生にピアスの穴を開ける、タトゥー、歯ブラシや剃刀の使い回し、性交渉など、思春期以降の感染が多くみられます。
C型肝炎ウイルス(HCV)
C型肝炎感染者の血液や体液に触れることで感染してしまいます。昨今では、不衛生なピアスの穴開け、剃刀の共有、タトゥーなどで感染が多くみられます。
D型肝炎ウイルス(HDV)
D型肝炎感染者の血液、またはそのほかの体液を介して感染します。D型肝炎ウイルス(HDV)は、複製にB型肝炎ウイルスが必要なリボ核酸系(RNA)ウイルスです。
E型肝炎ウイルス(HEV)
E型肝炎ウイルス感染によって起こる急性肝炎です。経口感染、またはごく稀に感染初期にウイルス血症者の血液を介して感染します。
ウイルス性肝炎はすぐ発症する?しない?症状は?
A型肝炎
潜伏期間:15~50日程度
主な感染経路は経口感染です。一過性の感染でキャリア化することはありません。急性肝炎を発症した場合は、38℃以上の高熱が伴います。数日後、全身の倦怠感や悪心・嘔吐・食欲不振・右季肋部痛などの症状が現れます。また、成人の場合は腎不全が起こることもあります。
B型肝炎
潜伏期間:30~180日程度
主な感染経路は血液感染です。成人が初めて感染した場合は一過性で終わります。急性肝炎を発症する場合としない場合があります。HBc抗原陽性の母親から生まれた乳児が感染予防をせずにいると、高確率でキャリア化します。日本では、HBVキャリアが約100~150万人いるとされていて、そのうちほとんどが自覚症状のない無症候性キャリアです。
C型肝炎
潜伏期間:15~180日程度
主な感染経路は血液感染です。成人が初めて感染した場合は、自覚症状がほとんどないまま経過し、約30%が一過性で終わり、約70%がキャリア化するとされています。日本では、C型肝炎キャリアが約150万人いると知られています。B型肝炎よりも、慢性肝炎や肝硬変・肝がんなどの肝疾患を発症する確率が高いとされています。
D型肝炎
潜伏期間:30~180日程度
主な感染経路は血液感染です。B型肝炎(HBV)をヘルパーウイルスとするため、B型感染している人のみが感染します。日本におけるD型肝炎感染例は少ないとされています。
E型肝炎
潜伏期間:15~50日
主な感染経路は経口感染です。一過性の感染で、キャリア化することはありません。急性肝炎を発症した場合は、A型肝炎に似た症状が現れます。稀に、劇症化することがあります。
肝硬変
アルコールの過剰摂取や肝炎が原因で肝細胞が破壊されると、次第に肝臓の中に硬い線維が増えて、見た目もデコボコのある表面となります。肝臓内部の血液循環が滞り、胆汁の流れに支障を来すようになり、本来の肝臓機能が果たせなくなる状態が肝硬変です。アルコールの摂り過ぎのほか、C型肝炎ウイルス感染が主な原因として挙げられます。
肝硬変の症状
肝硬変の初期段階では、ほとんど自覚症状がありません。病気の進行によって、次第に様々な症状が現れてきます。
このような症状がある方は肝硬変の疑いがあります
- 症状のない状態を代償性肝硬変と言います。
- 症状のある状態を非代償性肝硬変と言います。
- 全身の倦怠感や疲労感
- 食欲減退
- 黄疸
- 腹水
初期:症状が乏しく気づきにくい(代償性肝硬変)
肝臓には、一部分に障害が起こった際でも、その他の部分がそれを補って機能する「代償能」という働きがあります。そのため、初期ではほとんど自覚症状がないとされています。
中期~末期:症状あり(非代償肝硬変)
代償能があるとはいえ、肝硬変が進行すると機能が追い付かなくなり、次第と様々な症状が出てきます。
黄疸
全身の皮膚や白眼が黄色くなります。ビリルビンという色素が血中に増加することが原因です。黄疸に似た症状で柑皮症といって、みかんを大量に食べると手の平が黄色くなる症状がありますが、柑皮症は白眼は黄色くなりません。黄疸かどうかを見分けるには、尿の色がビールよりも濃くなったら白眼の色を確認するとわかりやすいとされます。
腹水・浮腫
門脈圧亢進と血中のアルブミン濃度が低下することで腹水が溜まります。
クモ状血管腫
細い血管が拡張することで、肩や二の腕・胸などに蜘蛛状の赤く盛り上がった斑紋が現れます。
手掌紅斑
手の親指付け根と小指付け根が赤くなります。
女性化乳房
女性ホルモンの代謝低下が原因で、乳房や乳首が大きくなります。男性だけに現れます。
出血傾向
血小板数の低下や肝臓で生成される凝固因子不足によって、出血が止まりにくくなったり、出血しやすくなったります。
肝硬変の原因
主な原因はアルコールの過剰な摂取です。お酒を飲み過ぎると肝硬変になります。ただし、日本人における肝硬変の原因で最も多いのは、C型肝炎ウイルスによる感染です。日本人の肝硬変の約2/3がC型肝炎ウイルス感染とされています。
肝硬変が進行すると…
初期段階では、肝臓の補う機能(代償能)もあって自覚症状がほとんどありません。しかし、肝硬変が進行すると、様々な症状が現れてきます。炎症が持続することで、全身の倦怠感や疲労感、食欲減退などの症状が現れます。そのほか、黄疸や腹水、クモ状血管腫、手掌紅斑などの症状が出てきます。さらに病気が進行すると、肝がんや肝不全となり、重篤な場合は命の危険の恐れがあります。また、様々な合併症が起こることで、治療による完治が困難となってしまいます。
肝がん
肝がんは、肝臓のがんです。大きく、以下の2つに分けられます。
- 原発性肝がん…肝臓から直接発生したがん
- 転移性肝がん…ほかの臓器から肝臓に転移して腫瘍となるがん
このような症状がある方は肝がんの疑いがあります
- 腹部のしこり
- 腹部の圧迫感
- 腹痛
- 腹水、むくみ、黄疸(肝不全の症状)
肝がんは自覚症状に乏しく、「沈黙の臓器」の1つに数えられます。進行したり、肝不全に至ると、上記のような症状が現れます。
肝がんの原因
肝がんの原因としてまず挙げられるのが、C型慢性肝炎、B型慢性肝炎、脂肪肝です。
そのほかの原因としては、飲酒が挙げられます。
また、明らかな原因なく発症する肝がんも存在します。
肝がんのリスクが高くなる方
- C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスに感染している方
- 糖尿病の方
- よくアルコールを飲む方
- 喫煙をしている方
- 太っている方
肝臓の病気というと飲み過ぎを連想するかもしれませんが、上記のように、アルコール以外の因子によって肝がんを発症することも十分に考えられます。
肝がんの検査
肝がんが疑われる場合には、以下のような検査が行われます。
- 血液検査(酵素・腫瘍マーカー)
- 腹部超音波検査
- 造影MRI検査
- 血管造影検査
- 肝生検(バイオプシー)
肝がんの予防
他の病気と同じように、原因となりうる因子を排除しておくことが重要です。
- B型肝炎ワクチンの摂取(「C型肝炎ワクチン」はありません)
- 生活習慣の改善
- 禁煙、禁酒
- 節酒
- 糖尿病の予防、治療
- 肥満の解消
肝機能障害(肝機能異常)の疑いのある方は当院へご相談ください
肝硬変などの肝機能障害は、観世応が慢性的に炎症し、肝細胞が破壊と再生を繰り返します。そのうち、肝臓の細胞が線維化して、本来の肝細胞機能が果たせなくなってしまいます。また、肝炎など初期段階での自覚症状がほとんどありません。そのため、肝機能障害などの疑いがある方は、早めに適切な治療を行うことが大切です。肝機能に関して、気になる方はどうぞお気軽に当院までご相談ください。